Mag-log inムツヤの闘技場での戦いが終わり、夜が明けて朝になる。 ユモトはこの世の終わりみたいな顔をしてガタガタ震えているが、ルーはニコニコ笑顔だった。「ダイジョーブダイジョーブ。私達もずっと後を付けて見てるから!」「ルーさん楽しんでません?」 ユモトがムスッとして言うとルーは視線をそらす。「ソンナコトナイヨー」 あ、絶対楽しんでるなと皆が思った。 ユモトが待ち合わせの場所に向かうとタノベの姿があったが、隠れて眺めているルー達はその姿を見て驚愕した。「え、何あの格好……」 珍しくルーが引いている。タノベはダメージ加工が施されたボロボロのズボンに白のインナーと青いジャケットを羽織っていた。「何あれ、何なの? 何か戦いでもあったの? 何であんなボロボロなの!?」「あー、アレは王都で流行ってる、わざとズボンをボロボロに加工した奴だ」 アシノが言うとルーは信じられないといった声を出す。「何でそんなのが流行ってるの!? 意味わからないんですけど!!」「えー? カッコよくないですか?」 ムツヤが言うとモモが「えっ」と言って振り返る。「あれはだな。男はカッコいいと思って履くらしいが、女受けは物凄く悪い不思議な服だ」「あれが…… カッコいいのですか?」「私にも良さは分からんが」 モモは絶対ムツヤには履かせないと誓っていた。その横でルーは腕を組んで何かを考え出した。「んー、でもユモトちゃんは男だし、ある意味正解? いやでもデートでアレは清潔感が…… あーもう頭がこんがらがってきた!!」 ユモトはタノベの元へ小走りで行く。「すいません、待たせちゃいましたか?」「いえ、俺も今来たばっかりの所です」 タノベは笑顔で答える。実は1時間以上前から待っていたことは誰も知らない。「えっと、その、今日はよろしくおねがいしますね!」 ユモトがはにかんで言うとタノベはドキッとしながら返事をする。「いえ、こちらこそ」「真面目か! 二人共真面目か!!」 ルーは隠れながらツッコミを入れていた。「と、とりあえず、その、お茶でも飲みながらお話をしませんか?」「そ、そうですね、良いですね!」 ギクシャクしている男2人を見てルーはモヤモヤしている。アシノは興味無さそうに腕を組んで見ていた。 タノベとユモトは身長差があり、歩幅も違う。今はタノベの歩みにユモトが無
「それでだ、闘技場は大きくわけて3種類の試合がある。1つは木刀を使って魔法の使用は禁止の、通称『子供の喧嘩』って言われてる試合形式だ」 全員がアシノの話を聞きながら歩く、ルーは知っているらしく少し退屈そうだったが。「次が武器の使用が認められているが、魔法は禁止の試合。これは剣士の試合だな。そして、武器も魔法も何でもアリの試合だ」「つくづく思うけどさー、闘技場って魔術師に不利よねー」「魔法のみの試合や団体戦もあるが、この辺じゃあまりメジャーじゃないからな」 なるほどと全員が理解したと同時に闘技場へ着いた。アシノが入場料を払って皆で観客席に座る。「ちょうど試合が始まる頃だな。午前中だから木刀の試合だ」 木刀の試合はあまり人気が無いらしく、観客席はまばらだった。 ファンファーレが鳴ると北と南の門が開き、防具を身にまとい、木刀を手にした男がそれぞれ入ってきた。 闘技場の中央の審判の近くまで歩き、木刀を構える。 すると審判が天に上げた手を振り下ろした。これが試合開始の合図だ。 大声で叫んで男が突っ込むと相手は斜めに木刀を構えて受け止めようとするが、叩きつけるように降ろされた木刀に体が持っていかれてよろめく。 そのスキを逃さずに…… 行くものだと思ったが、2人は距離を取ってにらみ合いになる。その後もカツンカツンと迫力のない攻防を繰り広げていく。「あの、何ていうか……」 苦笑いをしてユモトは言った。「まー、宿場町の小さい闘技場で、しかも木刀の試合っつったらこんなもんだな」 あくびをしてアシノは言う。「ひょうよ、これふぁひょひんひゃのふぁふぁふぁいよ!」 ルーの姿が見えないと思っていたら売店で買ったケバブを頬張っていた。「汚えから食いながら喋んな!!」「んっ、ちゃんと皆の分も買ってきたわよ」「あ、ありがとうございます」 ユモトは受け取り礼を言った。ムツヤ達もそれと同じ様に受け取る。「んー、これ美味しいでずね!!」「でしょー?」「確かに、食べたことのない味ですが美味しいです」 皆、試合のことはそっちのけでケバブに夢中になっていた。「って、飯食いに来たんじゃないんだぞ!」「あれー? ケバブ食べながら言っても全然説得力無いんですけど?」 ルーに指摘されアシノは少し赤面する。「いや、お前が買ってくるのが悪い!」「何よその言い方
「一般の冒険者だったら指先だけだろうがお前が負けることは無いだろうが……」 アシノはムツヤをチラリと見た。「強すぎるんだよなぁ……」 はぁーっとため息をつく。他の皆も相手を秒でぶっ飛ばしているムツヤの姿が容易に想像できた。「負ける心配は無いでしょうが、ムツヤ殿が目立ってしまいますね」「だな、誤解を解くか、急いで街から逃げてバックレちまうか。どっちかだな」 どうしたもんかとアシノは天井を見つめる。沈黙で気まずい部屋にノックの音が転がった。「んー? こんな時間にだーれー?」「キエーウの奴かもしれん、ムツヤ、お前が開けろ」 頷いてムツヤはドアを開ける。そこに立っていたのはドアノブに手を掛けているタノベの姿だった。「なぁ、やっぱやめとこうぜ?」 後ろには冒険者仲間のフミヤも居る。彼はタノベを止めようとしていた。「あらー、何でここが分かったのかしら?」 ルーは冷や汗をかきながら引きつった笑顔をする。「酒場から後ろを付けてきました!」「そういうのストーカーって言うんだぞ」 アシノはジト目でタノベを見つめていた。部屋を見渡してタノベはプルプルと震える。「1つの部屋に女の子を集めて…… あなた、エッチなことしたんですね!!!」「しとらんわ!!」 アシノがツッコミを入れるがタノベは引き下がらない。「部屋に女の子を集めて男が1人だけ…… 何も起こらないはずが無いでしょう!!!」 ルーとアシノは珍しく同じことを思っていた。「あーコイツめんどくせー」と。「タノベ殿、ムツヤ殿が言っていたハーレムというのは誤解なんだ」「じゃあこの状況は何ですか!?」 モモが弁明をするが、あまり意味がなかったみたいだ。「あー、じゃあ論より証拠っつーわけで。ユモトお前が男だって証拠見せてやれ」「な、ななななにを言ってるんですか! こんな可愛い子が男の子のはずがないでしょう!?」 タノベは慌てて言う、ユモトは赤面してそれを聞いていた。「僕が見せてムツヤさんの疑惑が晴れるのならば……」「そうよ! 減るもんじゃないし!」 ユモトは服の裾を持ち上げてその宝物庫の宝玉を御開帳しようとしている。「ユモトさん!? そんな事しちゃダメです! おのれ、こんな変態じみたことをユモトさんにやらせるなんて……」 タノベはすぅーっと息を息を吸って吐く。そして鋭い眼光でムツヤ
「えっと、突然お邪魔して申し訳無い。俺はタノベと言います」 軽く自己紹介をすると返事が帰ってきた。「こんばんはー、俺…… じゃなかっだ、わだしはムツヤって言いまず」 酔っ払った上に訛っているが、敬語を使っている辺りいいヤツなのかもしれないなとタノベは認識を改める。「私はモモだ。訳合って今はムツヤ殿の従者をしている」 オークの女はそう言う。従者をしているとはどういった事情なのだろうかと少し考えた。「ヨーリィです、ムツヤお兄ちゃんの妹です」 あまり似ていない兄妹だなと思った。短く言うとヨーリィはアスパラガスをむしゃむしゃ食べ始める。「えっと、ユモトです。よろしくおねがいしますね!」 美人ぞろいのパーティだが、やはりタノベにはユモトが一際輝いて見えた。「どうもどうも、よろしくお願いしまーす! 所で皆さんはどういう集まりなんですか?」 フミヤは酒を飲みながら尋ねる。すると一瞬空気が重くなった気がした。「そんなのどうだっていいでしょーよー!」 ルーはフミヤの背中をバンバンと叩く。「そ、そうですね、僕たちはただの冒険者の集まりですよ」 明らかに何かをはぐらかされている事にタノベは疑問を持ったが、知り合ったばかりの相手達に深入りはやめておこうと何も聞かないことにした。 その後は他愛のない話に花を咲かせたる。冒険者の面白話に笑ったり心配した顔をしたりするユモトにタノベはより惹かれ始めていた。「それじゃあ皆の夢って何なの? 俺は冒険者としてお宝を探して一攫千金当てること!」 フミヤは自分の夢を語り始めた。見ているこっちが恥ずかしいとタノベは視線を持っているジョッキに移す。「私もお金持ちになりたーい!!!!」 ルーは両手を上げて騒いでいる。「私はムツヤ殿の夢を叶えることだ」 モモは酔って少し赤くなった顔のまま目をつぶって言った。「私は大切な人を守ること」 珍しくヨーリィも話に乗っかった。意外なことにムツヤ達の視線が集まる。「その大切な人ってルーお姉ちゃんの事かなー?」 うざ絡みに対してヨーリィはジュースを飲んでスルーをした。「え、えーっと、僕は…… いえ、僕もムツヤさんに恩返しがしたいです。なのでムツヤさんの夢を叶えてあげることですかね」 ユモトもぽやんとした顔をしながらもじもじと言う。「まー、恩返しってんなら私もムツヤっちに
「ムツヤ、魔力が一気に回復するポーションでも無いのか?」 アシノがムツヤに聞いてみると当たり前のように「ありますよ」と返事が来たが、ルーが待ったをかける。「ムツヤっちならまだしも、ユモトちゃんが魔力を一気に回復させたら体中の魔力のバランスが狂ってショック死しちゃうわよ!!」「確かに、危ないかもしれませんね」 ユモトもあははと苦笑いをする。魔力は普通に売られているポーションを使っても回復を促進させるだけで、急な回復はしないのだ。「んなことは知ってるけどよ、コイツなら副作用なしで回復するモンでも持ってんじゃないのかって聞いてみただけだ」 一応アシノはムツヤが取り出したオレンジ色の薬を受け取って眺めてみる。そしてルーに渡した。「ちょっと舐めてみていい?」「おう、死ぬなよ」 好奇心に負けて手のひらに1滴薬を垂らし、ルーは舐めた。瞬間ビリビリとした感覚が口の中に広がった。「うえええええ、純度高すぎ!!! 水ちょうだい水!!」 ルーはバタバタと騒ぎ始め、ムツヤが水を渡すと一気に飲み干す。「あー、確かにこれは効くわ。でも研究してから使ったほうが良いかもね」 ルーは口から水をこぼしながら言う、仕方ねえなとアシノはユモトに尋ねる。「次の街まで後ちょっとだ、ユモト歩けるか?」「は、はい大丈夫です!!」 大丈夫と言うがユモトの顔色はあからさまに悪かった。「ムツヤ、おぶってやれ」「わがりまじだ」 アシノに言われ、ユモトが遠慮するより早くムツヤは背負い上げる。「ユモト、無理な時は無理と言うのも大事だぞ」「あ、えっと、すみません……」 そう言ってユモトはムツヤの背中に顔をうずめて抱きついた。何故かいい匂いがするがユモトは男だ。「モモは大丈夫か? ヨーリィも平気か?」 アシノは他の仲間の無事も確認した。「はい、私の怪我はもう治りましたので」 モモは胸に手を当て言い、ヨーリィも返事をした。「私はもう体を維持するだけの魔力は貰った」「それじゃ出発するか、日が暮れるぐらいには街に着くからな」 予定時間よりはだいぶ遅れたが、ムツヤ達は街を目指して歩き出す。 日が暮れてしまったが、まだ明かりを付けなくてもも周りが見えるぐらいの頃、ムツヤ達は街へと着いた。「着いたぞ、ここがカラスギって街だ」 アシノが軽く街の名前だけ言う。まばらに光を放ってい
ヨーリィはうつ伏せに倒した敵に乗りかかり、両腕を後ろで固めて動きを封じた。「マジックバインド!」 ユモトは魔法の縄で敵の手足をしっかりと拘束する。「さーてさて、どんなお顔をしてるのか見せてもらうかな」 ルーは歩いて動けない敵の前へと行くと、しゃがみこんで仮面に手を掛けた。「やめろ、やめろー!!!」 そんな敵の声を無視して仮面を取り上げると顔があらわになる。 女は割と整った顔立ちをしているが、目は殺意と憎しみに満ち溢れていた。 そして、何より左頬にケロイド状の火傷の痕が見える。「っぐ、殺す、殺す!!」「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて」 ルーはニコニコして言った。ムツヤ達は少し遠巻きにそれを見る。「聞きたいことは山ほどあるけど、なんでキエーウなんかに入ってるの?」 女は歯ぎしりをし、視線だけをモモの方に向けて言った。「オークをこの世から皆殺しにするためだ!!」 モモはそれを聞いてドキリとする。「事情は知らんが、充分に危険思想だな。縄で縛り直して治安維持部隊に引き渡すぞ」 この時、アシノ達は油断をしていた。遠くから飛んでくる矢に気づけたのはムツヤだけだった。 まっすぐユモト目掛けて飛んでくる矢、ムツヤはユモトを庇おうとタックルをして押し倒す。 矢はギリギリの所でかわせたが、ユモトの拘束魔法が一瞬緩んでしまった。その隙きを見逃さずに女は飛び起きてムツヤ達と反対方向に走り出した。「待て!!」 追いかけようとするが次々と矢が飛んできて、アシノ達は地面に伏せた。ムツヤはそんな事お構いなしに女を追いかける。「ははは、やっぱり君は強いねぇ。ムツヤくん」 この男の声をアシノは知っている。忘れもしない。「ちょっと俺と遊ぼうか」 かつてアシノの仲間であり、今はキエーウに所属しているウートゴがムツヤ達の前に立ちはだかった。 刀身の反った細身の刀をウートゴは取り出す。そして次の瞬間ムツヤは目を疑った。 ウートゴは目の前で3人に増えたのだ。思わずムツヤは走るのを止め、警戒をする。「ムツヤ!! それは東の国の魔術だ!! 気を付けろ、全員実体がある!」 アシノはそう叫んでムツヤに警告した。仲間たちはユモトが貼った防御壁で遠くから放たれる矢を防ぎながらゆっくりとムツヤの元へ進む。「ムツヤくん、俺と友達にならないか? 君の力と裏の道具があれ
遺体安置所へ行くと、棺桶に入れられたギルスのデコイがあった。「ギルドでの葬儀はこれを広場まで親しい者たちで運ぶ、私達で運ぶぞ」 大きな台車に乗せられた棺桶の周りをムツヤ達が囲む、その時ふとアシノが言った。「肝心なことを言い忘れるところだった。ギルスの死因は実験の事故で、私達の仲間になったのは、私がギルドに勧誘したからという設定だ」「わがりまじだ」 ムツヤは少し緊張気味に言った、他の皆も頷いて返事をする。「それじゃ行くぞ」 薄暗い遺体安置所を抜けると眩しい日差しが出迎えてくれた。全員でガラガラと台車を押してギルドの横を通り抜け、正面まで歩く。 そこには喪服を着た者たちが集まっ
肉を喰らい、エールをぐいっと飲んでアシノは話し始める。「ムツヤ、まず最初に言っておくがお前は何も悪くない」 悪くないと言われたが、ムツヤはまた自分はそれに近いことでもしでかしたのだろうかと不安になった。「みんな、自分が思っていたよりも数倍お前の本気が凄すぎて頭が整理しきれてないんだよ」 また肉を1口、アシノが食べ終わるまで誰も言葉を出さない。「正直嫉妬したよ。多分私が能力を失う前だったとしてもお前の方が遥かに強い」「いえ、そんなごと……」 エールを飲み干してぷはぁーっとため息を1つ、そしてアシノは笑う。「お前は凄い奴だよ、自信を持て」 ムツヤは喜んで良いのかよく分からなか
朝になりユモトは目が覚めた。テントを出ると空は快晴で、眩しい朝日が出迎えてくれた。「ムツヤさん、ヨーリィちゃん、起きて下さい」 ユモトが二人の肩をトントンと叩くと、二人共むくりと起き出した。「ふーんあー…… おはようございますユモトさん」「おはようございますユモトお姉ちゃん」「おはようございます、でもお姉ちゃんじゃないからね?」 いつもの様なやり取りをして3人はテントを出る。そして、ムツヤのカバンから食材を出して朝食の準備をした。 簡単な朝食ができる頃、ヨーリィは女性陣のテントへ3人を起こしに行く。 全員が揃い、心地よい朝日のもとで穏やかな朝食が始まる。「ウゴオオオオオオ
「あ、あの、ムツヤ殿…… 口を開けて頂けますか?」 モモは照れて俯きながら言う、ムツヤは言われた通りに口をあーんと開けた。そこへモモはクッキーを近づけた。「んむんむ、美味しいですね」 裏の道具の探知盤を操作している為に両手が使えないムツヤへ茶菓子を食べさせている。ただそれだけなのに、モモは物凄い気恥ずかしさを感じている。 ムツヤがクッキーを食べ終わると、砂糖を多めに入れた紅茶を口元へ近づけた。「はぁー、紅茶とクッキーって良いですね。モモさんありがとうございます」 ムツヤは満足そうに言った、その笑顔を見てモモはニヤけた笑顔になってしまう。「そ、そうですね」 顔を隠すようにモモも







